【歴史×開発】変わりゆくワルシャワ・ヴァリツフ通りの今と未来|知られざる物語

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Ulica Waliców(ヴァリツフ通り):歴史と記憶の交差点

歩いていると、ふと立ち止まりたくなるような静かな通りがあります。それがヴァリツフ通り(Ulica Waliców)。ここは、歴史が普段の日々のなかに溶け込んでいると感じられる不思議な場所です。

18世紀から続く通りのはじまり

この通りの名は、18世紀にこの地を開発した貴族バジリィ・ヴァリツキ(Bazyli Walicki)にちなんでいます。1770年に正式に「ヴァリツフ」と名付けられ、以来、ワルシャワの時代の移り変わりとともにあり続けて来た通りです。

工場と活気があふれた19世紀

19世紀になると、この周辺で産業が発展したため、工場が立ち並びました。中でも1854年創業のヘルマン・ユングのビール醸造所は有名で、当時のワルシャワの工業化の先駆ともいえる存在でした。通りは、人と物が行き交う活気あるエリアへと変貌を遂げていきました。

あるユダヤ人詩人の記憶…ヴワディスワフ・シュレンゲルとヴァリツフ通り14番地

ヴワディスワフ・シュレンゲル 

ヴァリツフ通り14番地には、ユダヤ系ポーランド人の詩人ヴワディスワフ・シュレンゲル(1912-1943)の住まいがありました。彼は、第二次世界大戦中のワルシャワ・ゲットーでの暮らしを詩に綴り、“ゲットーの詩人”として知られています。また映画「戦場のピアニスト」の主人公ヴワディスワフ・シュピルマンとも親交があったそうです。

日常のささやかな喜びと希望や、声なき悲哀を見つめたシュレンゲルの作品には、読む人の心に深く染み入る輝く感性が感じられます。

彼について調べるうちに、ワルシャワ・ゲットー蜂起の際、壕に避難していた多くの人々と共にドイツ軍に発見され、翌日、130名を超える市民と一緒に銃殺されたことを知りました。
もし、彼がウワディスワフ・シュピルマンのように戦火を生き延びていたなら――
きっと、戦後の世界に、もっと多くの言葉を遺し、もっと多くの、魂を揺さぶる詩を発表してその才能が広く知られていたことでしょう。彼の死は深い無念とともに、今を生きる私たちが平和の意味を問い直すための静かな記念碑でもあります。

その声が消えてしまわぬように、私たちは何をすべきなのかを、深く考えさせられました。

リンクルブルム文書とは?

シュレンゲルの詩の一部は、リンゲルブルム文書(Archiwum Ringelbluma)として知られる歴史資料の中に保存されています。これは、第二次世界大戦中にワルシャワ・ゲットーで秘密裏に収集された膨大な記録で、ユダヤ人社会の実態を後世に伝える貴重なアーカイブです。

オイェフ・リンゲルブルムを中心としたグループによって作られたこのアーカイブは、ノートや写真、手紙、証言などで構成されており、戦時下の人々のありのままの声が残されています。そして、現在はユネスコの「世界の記憶」にも登録されています。

ゲットーの記憶と今に残る痕跡

ナチス・ドイツによる占領時代、ヴァリツフ通りは1940年から1942年夏までワルシャワ・ゲットーの一部となりました。このわずか数百メートルの通りにも、多くのユダヤ人が強制的に移住させられ、かつては静かだった界隈が一変します。14番地の集合住宅には、実際に複数の家族――総勢14人が肩を寄せ合って暮らしていたという記録も残っています。
この数字だけを見ても、当時のゲットーがどれほど過密で、厳しい生活環境だったかが想像できるのではないでしょうか。狭い部屋に多くの命がひしめき合い、壁越しに聞こえる生活音や人々の声が、今もこの場所に静かに残響しているように思えます。

現在でも通りの一角には、当時のゲットーの壁の一部が残されており、歴史を伝える“生きた証言”として人々を迎えています。

変わりゆく街のなかで、記憶を守る取り組み

近年、このエリアでは再開発が進められ、歴史ある建物と現代的な建築が混在するユニークな景観が広がっています。そんな中で注目されているのが、ヴァリツフ14番地に描かれた巨大な壁画「Kamień i co(石と何か)」。

この作品は、過去の記憶と今を繋ぎながら、街の中に新たな問いを投げかけています。アートが語る歴史のかたち、それは時に言葉よりも雄弁です。

都市が変わっていく中でも、こうした取り組みは「記憶とともに前に進む」という意志の表れとして、多くの共感を集めています。

一度、歩いてみてほしい通り

ヴァリツフ通りは、ワルシャワ観光の主流ではないかもしれません。けれど、その静かな佇まいのなかにワルシャワにある数少ない戦前の建物が残る場所の一つで、20世紀の激動の時代をここで生きた人々がいたことを強く感じさせてくれます。看板も派手な説明もありませんが、朽ちかけた建物の表情や、壁に残るひび割れひとつひとつが、過去の誰かの存在をそっと伝えてくれるのです。

言葉にならない歴史を、五感で感じる—そんな体験ができる歴史的一角と言えるかもしれません。

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